「インクレディブル・ファミリー」を見た話

 このごろ、私のツイッターで見える範囲のひとたちが、こぞって映画館に足を運んでいる。どうやら話題の映画がいくつもあるようで、それがおもしろいだの、おねショタだの、止めろだの、止めるなだの言っているのだ。

 いまどき、わざわざ映画館まで映画を観に行くひとがどれくらいいるのか。毎月1,000円も出せばインターネトーで映画が見放題の時代である。そんななか映画館にお客さんを集めるために、それはそれは苦心しているのだろうと思っているが、まあ「とりあえずツイッターでバズらせる」、これが最も効果的なのではないだろうか。

 

 ん? バズる? バズ、バズ……バズ・ライトイヤー!!!

 そう!

 バズ・ライトイヤーである!

 今回はそう!

 バズ・ライトイヤーでおなじみ!

 ピクサーの最新映画『インクレディブル・ファミリー』の話がしたいのだ!

 こんなにおもしろい映画がツイッターで誰の口からも語られていないのである!

 信じられない!

 ぽまいら、おもしろへのアンテナを止めるなハイウェイ!

 

 もう上映が終了したところも多いようなのだが、滑り込みでこの素晴らしいファミリー映画を見たという感動を、伝えたい、ひけらかしたい、話題性だけで映画を見る奴らにマウントを取っていきたい! のである。(私は『君の名は』を公開2日目に観に行ったくらい”話題性”には敏感であるが、いまこの一瞬で自分のことは成層圏より高い棚にあげてしまったし、投げたブーメランはスポンジでできているので痛くも痒くもない)

 

 そもそも映画館に行くなんてしち面倒臭いのだが、我が妹が映画を観に行きたがっており、ついでにタダでチケットを取っていただけるとのことでホイホイついていった。

 どうせなら話題の映画を観て、「気は進まなかったが観てきた。評判通りおもしろかったよ。え? まだ観てないひとがいるの?」とツイッターでいばり散らかしたかったが、渡されたチケットには『インクレディブル・ファミリー』と書かれていた。こんなものでは誰にも偉そうな顔をできないではないか。まったく不出来な妹を持つと兄は苦労するものである。

 だがしかし、そんな未来とは違った結果が待っていたのである。『インクレディブル・ファミリー』はとにかく最高であった。これから何度も「『インクレディブル・ファミリー』はとにかく最高であった。」と打ち込む手間を考えて「『インクレディブル・ファミリー』はとにかく最高であった。」という文章をCtrl+Cでコピーしておいたほどである。『インクレディブル・ファミリー』はとにかく最高であった。

 

 

 

 それ以前に、皆様は前作『ミスター・インクレディブル』はご覧になっているだろうか。「怪力」や「伸縮自在の体」、「手から氷を噴出させる」などといったスーパーパワーを持った人達が「ヒーロー」と呼ばれる世界での物語である。しかし、ヒーローと呼ばれてちやほやされてたのも昔の話で、いろいろ大変なんだよっていう映画なんだけど説明もめんどくさいのでちゃんと観ておくこと。

 今回の記事のためにちょっとググってみたら2004年の作品で、今作は14年ぶりの新作であるということに衝撃を受けた。あー↑んなにおもしろくて出来の良い映画が14年も前のことなー↑んですかあ!? あんなに質感にこだわった映像をつくるピクサーが、海外アニメらしい豊かな表情を作り込んだこと、さらにはイラスティガールのような「伸び縮みするキャラクター」をあれほどまでに動かしたことに感動したものである。

 

 ということでまずは、ピクサーのアニメーション映画を褒めるのなら、その映像クオリティの高さからだろう。今作のなかから個人的に目を見張ったシーンがふたつある。

 ひとつはクライマックスの「フロゾンが雪山をつくりだすシーン」だ。手から氷を噴出させる彼のアクションシーンはダイナミックでかっこよく、わかりやすい見どころである。彼は何度も画面いっぱいに氷塊をつくりだし、迫力を出してくれたのだが、このシーンではもう氷山を超えて雪山を生み出した。氷の塊ならばこれまでと変わらないし、おそらくCGを作るコストも過去の工程から計算しやすかっただろう。しかし今回は細かな雪が積み上がった雪山であった。あの質感には鳥肌がたってしまった。同じものではなく、当たり前のように新しい映像表現でトラブルを解決して見せるのは、序盤のシーンとも重なって素晴らしいシーンと言えるだろう。

 もうひとつは、忘れてしまったひともいるかもしれないが「空高く飛び上がったジャックを、家の外にあるプールに飛び込みながらキャッチするシーン」である。飛び込んだことで上がった水しぶきはカメラにかぶさり、まるでスクリーンが濡れたかのような表現までなされたシーンであったが、この「水の質感を表現する」というのがどれだけ難しく、変態的なこだわりによってなされているかを考えてほしい。液体と、その液体をより美しくするための光の演出をCGで表現することが並大抵のことではないことを『ファインディング・ニモ』で我々は知っている。(少々脱線するが、私は『スーパーマリオ・サンシャイン』というビデオゲームで、プレイヤーが操作する主人公マリオが浜辺を水しぶきを上げながら走る様子に感動したことがある)

 あのたった一瞬のために費やされた努力と言うか、こだわりと言うのか、精神的なパワーが、この映画をよりよいものにしているのだという確信がある。『インクレディブル・ファミリー』はとにかく最高であった。ペーストを忘れていた。

 

 

 

 本作の「声の演技」にも注目していきたい。14年ぶりの新作であるが、主人公たち5人家族の声優は、父・母・姉がそれぞれ前作から続投となっている。

 そうそう。言い忘れていたが私は日本語吹き替え版で鑑賞した。スピード感のある映画を字幕で追うのは面倒臭いし、前作も日本語吹き替え版で観たし、ふだん映画を観るときは字幕版の私も今回は日本語吹き替え版である。そもそも私の英語力はほぼゼロなんだから見栄を張っても仕方がないのだ。ジャップはジャップらしく、大人しくニポンゴでたのしむことをおすすめする。

 それはそれとして、俳優さんたち自身も続投できることに驚いていたようなのだが、観ていてもまったく違和感がなく、多少の思い出補正というやつはあるにしても、あの家族の声はなんの変わりもなく感じられ、とてもいいお芝居を観ていた気分でいっぱいであった。というか、14年経っても綾瀬はるかがちゃんとヴァイオレットを演じきっていたことに驚きと感謝で胸いっぱいである。また、一家の弟であるジェットの声優は前作と変わっていたらしいのだが、それにはまったく気づかなかった。そりゃあ、14年もの時間が経過すればチビっ子も立派なオトナ、男子3日会わざればタケノコみたいにニョッキッキなのだから、交代していてもおかしなことではないが、まったく変化を感じさせない役者をよくぞ見つけたものである。子役ってすごいわね。

 ゲスト声優であろうタレント陣には、文句を言いたくなるのが我々アニメホタクなのだが、ずっとたのしかったのでぶっちゃけ何も言う気にならなかった。モブがモブらしく居るという効果もあってちょうどよかったのではないだろうか。こじるりのキョドったファンボーイ的な演技も良かったと私は思う。スーパー・ササダンゴ・マシン演じるクラッシュ・アーとMr.インクレディブルの掛け合いを私はとても気に入っている。パパとしての生活を経て、つい口から出たセリフがよかったし、それに対して物理的な強い力を持ったクラッシュ・アーらしい反論は「パパ」を経験する前のMr.インクレディブルを重ねることができる最高のシーンだった。

 

 とまあ、いろいろ語る点の多い作品だが、本筋は「生まれ持った力を活かして活躍することを望む心」と「世間に溶け込む努力をしながら家族を守りながら生きること」の両立に悩むという物語だ。

 ヒーローの持つ力の大きさは世間に甘えをもたらしてしまうというリスクを唱えたり、自分の持つ力を発揮できないことへの不満や、ヒーローとして活動することと同じくらい「子育て」や「家族を守る」ことは大変である、などなど切り口の多さが見どころだろう。118分ものあいだ、まったく飽きること無く最後まで見届けた。

 能力バトルものとしての魅力もたっぷりだった。ヒーローが所持するスーパーカーなどから見て取れる古臭いヒーロー像や、別の座標をつなぐワームホールを発生させるといった今風なスーパーパワーなど多様にえがかれるスーパーヒーローを観ることができて満足度はとても高い。

 今回の主人公は母であるヘレンなのだが、その活躍を影で支え続けるのは父のボブ。あらゆる側面で戦い続ける彼の姿に、世のお父さんがたは勇気をもらってほしい。みたいなありがちなシメで終わろうと思う。『インクレディブル・ファミリー』はとにかく最高であった。

 いや、実際すごいのである。あれだけたくさんある物語の起伏に体ひとつで立ち向かい、スピード感を損なわず最後まで走り抜けて見せた。登場人物がそれぞれの不満をお互いにぶつけ合うにもかかわらず、なんとか着地して、結果として誰にもイラつかないのだ。わがままな弟や、思春期の姉、ヒーローに執着し続ける父、家庭を優先すると言い続けたくせにかつての栄光の日々を思い出しちゃった母など、ムカつきポイントはたくさんあったのに、みんなちゃんと成長して家族としてまとまるのだから観ていて気持ちいいに決まっている。この夏、最高の映画は『インクレディブル・ファミリー』であった。

 

 ひとつ忘れていたが、本作の主人公と言えるイラスティガールことヘレンがたまらなくセクシーである。とくにおしりがよい。胸もよいのだがおしりがよい。カメラワークも確実にそこを意識しているし、「女を取り戻す」みたいな意図があったのだと思う。

 ヴァイオレットの、絶妙に居そうなティーン感とかもすごい。目の下のシワなのか涙袋なのか、ヒーローマスクの下にある一般人らしさにフェチズムを感じた。

 モタクにも満足いただけること間違いなしの『インクレディブル・ファミリー』であるが、残念なことにもう公開からしばらく経っているので劇場で見る機会も残りわずかだろう。いやぁ、これを観ていないひとがいるなんて、どうしてそんなもったいないことが出来るのか。たまにはシュマーポヒョーンでトゥイッチャーを見るのをやめて、外に出ること、特に映画館に行って『インクレディブル・ファミリー』を観ることをおすすめする。なぜなら、『インクレディブル・ファミリー』はとにかく最高であるからだ。